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マタニティハラスメント/maternity harassmentは英語か

2014年10月25日


 

 妊娠を理由に降格するのは、男女雇用機会均等法に違反するとの最高裁判断で、「マタニティハラスメント」やその略称の「マタハラ」が一気に世間に広まった感がある。

 

「セクハラ」はsexual harassment、「パワハラ」はpower harassmentという英語が日本語になったものだが、どうやら「マタハラ」「マタニティハラスメント」はアメリカやイギリスから来た言葉ではないようだ。

 

 現時点でmaternity harassmentをアメリカの新聞・雑誌・学術誌のデータベースであるProQuestで検索しても、一件もヒットしない。アメリカ政府文書のデータベースにも存在しない。

 

 アメリカでは、妊娠女性へのいやがらせや差別、日本でいうマタハラを防止する法制度は出来上がっている。そのなかで頻繁に使われているのがpregnancy discrimination、直訳すれば「妊娠差別」という言葉。

 

 「妊娠差別についての事実関係(Facts About Pregnancy Discrimination)」というネバダ州平等委員会( Nevada Equal Rights Commission)の文書にアクセスした。妊娠女性への差別が違法であることを次のように明示している。

 

   Pregnancy discrimination is prohibited by Nevada state law and by Title VII of the Civil Rights Act of 1964. ("Facts About Pregnancy Discrimination," Nevada Equal Rights Commission, Accessed on 10/24/2014)

  妊娠差別は、ネバダ州法および1964年公民権法第7編によって禁じられている。

 

同じ文書で、pregnancy discrimination は discrimination on the basis of pregnancy, childbirth or related medical conditions妊娠、出産、その他の関連する体調による差別)と言い換えられ、その意味がより明確化されている。

 

   Discrimination on the basis of pregnancy, childbirth or related medical conditions constitutes unlawful sex discrimination. Women affected by pregnancy or related conditions must be treated in the same manner as other applicants or employees with similar abilities or limitations.  ("Facts About Pregnancy Discrimination," Nevada Equal Rights Commission, Accessed on 10/24/2014)

   妊娠、出産、その他の関連する体調による差別は違法の性差別に該当する。妊娠あるいは関連する体調の女性は、同等の能力、ハンディをもつ求職者あるいは従業員と同等に取り扱わなければならない。 

 

 

次は米労働省のサイトにあった一文だ。妊娠差別が米国にも存在していることを示唆している。

 

  Yet, pregnancy discrimination persists in many forms, in all stages of employment hiring, firing and promotion and in all stages of pregnancy. Latifa Lyles, "What to Expect When Youre Expecting: Fair Treatment Under the Law," U.S. Department of Labor 8/12/2014)

 しかし、妊娠差別は雇用のあらゆる段階(雇用、解雇、昇進)、すべての妊娠の段階で多数の形態で存続している。

 

 

 というわけで、「マナタニティハラスメント」とは妊娠や出産を理由にした女性への差別(毎日新聞20141024日朝刊)であるから、pregnancy discriminationは日本でいう「マタニティハラスメント」と完全に同じといえる。

 

 それでは、そのまま英語にしたmaternity harassmentは英語の世界で通用しないのか。そうでもなさそうだ。

 

イギリスのロイター通信Business Video OnlineJapan's maternity harassment problemという見出しの映像ニュースを流している。記者はmaternity harassmentという言葉を使って、「マタニティハラスメント」の問題が最高裁で審判されていることを伝えている。アメリカのFOX テレビなど世界のメディアが、これを流した。


日本の新聞社、通信社の英文メディアも最高裁の審理をつたえる報道のなかで、

 

   "maternity harassment"— discrimination in the workplace against women who are pregnant, on child-care leave or have returned to work after giving birth (ジャパンタイムズ)

   妊娠中、産休中、産後に職場復帰した女性に対する職場での差別である「マタニティハラスメント」

 

 

   suffer "maternity harassment" (共同通信)

   「マタニティハラスメント」に苦しむ

 

   suffer from what is called "maternity harassment" (毎日)

   いわゆる「マタニティハラスメント」に苦しむ

   

 

    suffer maternity harassment in the workplaceNHK

   職場でのマタニティハラスメントに苦しむ

 

 

   the first ruling on " maternity harassment" (朝日)

   「マタニティハラスメント」の初判断

 

    "maternity harassment" ruling (読売)

   「マタニティハラスメント」判決

 

 

    maternity harassment case(NHK)

    マタニティハラスメント裁判

 

などmaternity harassmentを使っている。これで十分に意味が通じるからだ。「いわゆる」と言う意味でコーテーションマーク付で使っているメディアもある。

 

いずれにしても、maternity harassmentは和製英語だが、世界的に認知される英語となるかもしれない。

 

 

(引野剛司/甲南女子大学教授  10/25/2014)

 

 

 

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