時事語、話題語、ビジネス・暮らしのことば、日常語に対応する今アメリカなどで使われている英語がみつかります
2017年08月16日
われわれは、仕事のメールの最後に、自分の転勤だとか転職、家族などについて言及するときに、「私事で恐縮ですが」と一言、前置きします。
仕事に関することは「公」で、自分のことは「私」として公私を区別するのが日本のビジネス文化だからです。
仕事上のコミュニケーションで、個人的なことを述べるのは、相手に非礼だと考え、まず最初に「恐縮です」と詫びておくのが日本の言語慣行です。
この点ではアメリカは、異なります。職場にプライベートを持ち込むことに、日本人が想像するような違和感はありません。
したがって、アメリカ人相手の英語のビジネスメールで、自分の個人的な事情を伝えるにあたっては、前置きで「私事で恐縮ですが」などと、「非礼を詫びる」必要はまったくありません。「恐縮ですが」にあたる、I’m sorry to sayとかI hate to bother you.などと始めることの方が相手は違和感を感じます。
業務に関することについて述べたあと、自分のことを述べるときは、いきなり、「つなぎの言葉」を使って入ります。よく使われるのが、
On a personal note
です。Personal noteとは「個人のメモ」ですが、on a personal noteとなると「個人的なことですが」という日本語に相当します。こんな感じて使われています。
On a personal note, I will retire from FDA on January 7, 2017, after nearly 25 years of service at FDA and nearly 32 years of service in the Federal government.(John Jenkins,"A Review of CDER’s Novel Drug Approvals for 2016," U.S. Food and Drug Administration 1/4/2017)
私事ですが、2017年1月7日付けで食品医薬品局を退職いたします。食品医薬品局で25年近く、連邦政府で約32年ばかり勤務いたしました。
On a personal note, I currently live in South Carolina, but many years ago I lived in Chassell. I still have some cousin that live off of Canal Rd.("how to get rid of apparent yellow jacket infestation in walls/attic of house," extension Ask an Expert,Cooperative Extension,8/19/2013)
私事ですが、私は現在はサウスカロライナに住んでいますが、ずっと昔はチェイセルに住んでいました。いとこ何名かがカナルロードから少し離れたところに今もまだ住んでいます。
このon a persona noteは自分のことを言う時だけに限りません。 家族や知人、友人の個人的なことに話題を変える時にも使えます。例をひとつ紹介しておきます。
On a personal note, she is happily married to Gus and is a mother of a toddler.(City of Jacksonville, Florida)
個人的なことについていえば、彼女はガスと幸せな結婚をしており、一児の母親となっています。
アメリカ社会では仕事とプライベートを日本ほど区別していないということは、オフィースのデスクの上に置かれている家族の写真がよく物語っています。
既婚者は、自分のデスクには家族の写真を飾るというのが、決まり事といえるぐらいです。父母や、子どもが職場にやってくることもしょっちゅうあります。職場の同僚も気持ちよくこれを迎え入れます。自分の家族と職場の仲間が顔見知りになっていることすらあります。
「家族を大事にする」というのはアメリカ的価値観のひとつです。日本で放映されているアメリカの人気のテレビドラマNCISやMajor Crimeなどにも、家族が職場に尋ねて来るというシーンは数限りなくあります。また、ドラマ自体が犯罪の解決という縦糸と主人公の家族や家庭の事情という横糸で構成されていることがよくあります。
ですから、ビジネスコミュニケーションにおいても、自分のプライベートなことを相手に伝えるにあったって、その非礼を謝ってから伝えるという発想はまったくありません。
(引野剛司・甲南女子大学教授 8/16/2017)
ここで紹介した表現は、米国での複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。