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「不要不急」の英語発想と日本語発想

2020年05月13日

 

『実用・現代用語和英辞典』の「不要不急」の訳語がnon-essentialとなっているのは、「日本語の意味合いを十分に英語で表現しきれていない」とのメールを辞書ユーザーから、いただきました。

 

「不要不急には、必要性と緊急性の意味合いが含まれている」がnon-essentialということばには緊急性が含まれてはいないと、Longman Dictionary of Contemporary Englishのessentialの定義 “extremely important and necessary (極めて重要で、必要)”をあげてのご指摘でした。

 

今、「不要不急の外出は控える」「不要不急の移動は控える」「不要不急の旅行は控える」などのメッセージは、英語圏の政府や自治体、個人のSNSなどからも多数発信されています。

 

注目すべき点は、日本語では「不要不急」と表現される文脈で、英語圏諸国ではnon-essentialという言い方がされていることです。アメリカでもカナダでも、イギリスでも、オーストラリアでも、ニュージーランドでも、南アフリカでもみな同じで、いわゆるアメリカ英語、イギリス英語ともに使われています。

 

例を挙げます。日本語話者なら「不要不急の外出は控える」と表現するところ、avoid nonessential outingsと表現してるアメリカの人の一文です。

 

 

 As we all avoid nonessential outings and practice social distancing, we hope you can enjoy some outside time soon!  Stay healthy! 

(Persona Day Spalon,Hanover, Pennsylvania, USA, Twitter 3/28/2020)

皆が不要不急の外出を控え、社会的距離を保つことを実践しています、ほどなく外出の時間を楽しむことができることを願っています。お体お大事に!

 

 

次は、「不要不急の移動は控える」をavoid nonessential movementと表現してる一文。 米カリフォルニア州ロサンゼルス郡に住んでいる人が市長のメッセージをツイートしたものです。

 

 

 

Mayor Eric Garcetti urges all of LA County to STAY home and avoid nonessential movement during Coronavirus health emergency!

 (935 KDAY,Los Angeles,California Twitter 3/20/2020)

エリック・ガルセチ市長はロサンゼルス郡全域に対し、コロナウイルスによる健康緊急事態が発生している間は、家にいて、不要不急の移動は控えるように要請している。

 

 

次は「不要不急の旅行を控える」でやはりnonessentialを使っている例です。

 

 

The CDC issued a level III travel health notice urging Americans to avoid all nonessential travel to China due to the coronavirus.

(“TIMELINE: The Trump Administration’s Decisive Actions To Combat the Coronavirus,” Donald J. Trump for President, Inc. 4/27/2020)

米国疾病予防管理センターはレベルIIIの渡航健康勧告を発出し、コロナウイルスのため不要不急の中国への渡航はすべて控えるよう米国人に呼びかけた。

 

 

 

とはいえ、英和辞書にはnon-essentialの訳語のひとつは「不必要な」(プログレッシブ英和中辞典、ランダムハウス英語辞典など)とありますから、これらの例文のnon-essentialはかならずしも「不要不急の」と訳す必要はありません。Non-essential movementなら「不必要な移動」、non-essential travelは「不必要な旅行」と訳しても、日本語として不自然ではありません。

 

 

 しかしながら、non-essentialを「不必要な」と訳してしまうと、文意を十分に伝えることができない場合があります。

 

例を挙げます。米フィラデルフィア市のコロナウイルスでの休業指示についての文です。

 

 

 

If you need help determining if your business is considered essential or non-essential please email VBEOC@phila.gov or ra-dcedcs@pa.gov.

( Charlotte Merrick,Kevin Lessard "Non-essential businesses to close until further notice," City of Philadelphia, Pennsylvania 3/22/2020)

皆様のビジネスが必要なものであるのか、不必要なものであるかを判断するための支援が必要な場合は、VBEOC@phila.gov または ra-dcedcs@pa.gov.までメールをお送りください。

 

 

 

 

あなたのビジネスは「不必要である」というような言い方を役所がするはずはありません。この訳は不適切と言わざるを得ません。やはりここは「必要不可欠」と訳すほうが、日本語としてはナチュラルであり、意味を適切に伝えることができます。

 

もう一例あげます。次は英国の役所の文です。

 

 

 

If you wish to tell us about a non-essential business that has remained open against government instructions, you can report the details to us.

("Coronavirus (COVID-19) - report a non-essential business opening," Uttlesford District Council, Essex, England, Retrieved on 5/10/2020)

政府の指示に反して営業を続けている不要不急の店舗についての通報では、詳細をご連絡下さい。

 

 

ここのnon-essential businessを「不必要な店舗」「不要な店舗」と訳してしまうと日本語としては誤解や反発を招きかねない表現となってします。やはり、ここも「不要不急な」と訳すほうが日本語として、適格に意図を伝えることができます。となると、non-essentialには日本語でいう「不要」だけではなく、「不急」の意味も包含される場合があることが、これらの実用例から伺い知ることができます。

 

考えてみれば、non-essentialは完全に「不必要な(unnecessary)」とイコールではありません。英英辞書の定義を見ると、”not absolutely necessary(絶対に必要というわけではない“ - Collins Dictionaryや“not completely necessary” (全面的に必要ではない,)”- Longman Dictionary of Contemporary English となっています。

 

つまり、non-essentialは「不必要な」ではなく、「必要不可欠ではない」「必須ではない」を表す言葉なのです。

 

ということは、日本語では「必要がなく、急いでいない(不要不急)」と表現するところは、英語では「必要不可欠ではない」「必須ではない(non-essential)」と言うのが慣習的のようです。ようは、表現の仕方が若干異なっているだけで、本質的には、それぞれ同じことを言っています。 ですから、「不要不急の」の訳語としてnon-essentialは適切だと考えています。

 

ちなみに、日本語の「不要不急」を逐語訳したnon-essential and non-urgentという言葉の用例も確認した範囲では1件ありました(シンガポールの裁判所の文書)。ただ、コロナ禍状況での「不要不急の」と言う場合は、ほぼすべてnon-essentialだけで表現されています。

 

 

 (引野剛司・甲南女子大学名誉教授/引野現代英語研究室 5/9/2020)

 

ここで紹介した表現は、原則として複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。

 

 

 

 

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