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英語圏SNSで話題となっているpolite racismとは?

2020年06月23日

 

ツイッターやフェイスブックなどで、polite racismと言う言葉が少し前、話題になっていました。

 

米ミネソタ州ミネアポリスで、白人警官が黒人男性のジョージ・フロイドさんを拘束中に死亡させた事件に端を発した、”Black Lives Mater(黒人の命は大切)”をスローガンにした反人種差別運動の広がりのなかで、SNSで広まった言葉です。

 

英米系のネット辞書にもまだ載っていないようですし、日本語の定訳もなさそうです。訳すと「礼儀正しい人種差別」「ていねにな人種差別」あたりでしょうか。「慇懃無礼な人種差別」とも訳せるような気がします。

 

 米大陸発見したコロンブス、アメリカ独立戦争時の南軍の長、リー将軍の銅像を人種差別主義者として倒した反人種差別運動は、白人が持ついわゆるpolite racismをも運動の対象に加えていくかどうかかの境目に今はあるようです。

 

「礼儀正しい人種差別(polite racism)」を「Where Strangers Become Neighbours: Integrating Immigrants in Vancouver, Canada(違う人たちが隣人となった場所:カナダのバンクーバーでの移民の統合)」という著作のなかでLeonie Sandercock, Giovanni Attiliは次のように定義しています。この本の発刊は2008年となっていますから、polite racismは、昨今作られた言葉ではないと言えます。

 

 

 

polite racism,” the kind practiced by people who believe in racial superiority but avoid saying so in public. Rather, such prejudices can be seen as examples of what Elliot and Fleras call “subliminal racism.”

(Leonie Sandercock, Giovanni Attili, Where Strangers Become Neighbours: Integrating Immigrants in Vancouver, Canada, Springer Science & Business Media, 12/10/2008)

 

 

人種的な優越さを信じているが、人前でそれを言葉で表すのを避ける人々によって実践される人種差別の種類である「礼儀正しい人種差別」。むしろ、このような偏見はエリオットとフレイザーが「潜在的人種差別」と呼ぶものの例として見ることができる。

 

 

 

Lisa Bowmanというアメリカの黒人女性のFacebookの投稿は、人種差別意識を持っていないと自認するリベラルな白人のpolite racismを痛烈に批判しています。

 

 

 

When is this going to stop!! Perfect wording!! Polite Racism!! Happens every day!! Oh I'm not racist, I'm not burning crosse's, I'm not yelling in your face, I have a friend that's black, brown, yellow or green!!

(Lisa Bowman, USA, Facebook 6/15/2020)

これはいつ終わるの!! 完璧な表現、礼儀正しい人種差別!! 毎日起こっている!! 「ええ、私は人種差別主義者じゃないです、私は十字架を燃やしたりはしないし、人の面前でどなったりしない。黒人や褐色の人、黄色、緑の友達もいます!」(とか言う人たち)。

 

 

 

この投稿からも、人種差別はしてないと自負する人々が潜在的に持つ人種差別意識(racism of those who pride themselves as not racist) が、マイノリティの人々がpolite racismと呼ぶものであることがわかります。

 

 

Polite racismについての投稿がSNSに多数現れるようになったのは、サンフランシスコの中年白人女性が自宅の石塀にBlack Lives Materと落書きされたことを警察に通報した動画がネットに流れたことがきっかけでした。

 

落書きをしたと思える非白人男性が、この女性のpolite racismをなじる映像(テレビニュース映像を含む)がネット上に流されました。潜在的に人種差別意識があるから警察を呼ぶのだというわけです。これは私有財産ですからと反論する白人女性の映像も含まれています。

 

これに対して、ツイッターに様々な反応が投稿されました。

 

 

The New Racism Is Polite Racism.

(Myleik Teele, Atlanta/Los Angeles, USA, Twitter 6/3/2020)

新しい人種差別は礼儀正しい人種差別だ。

 

 

 

White people need to know that even when you use "POLITE RACISM" is still RACISM.

(sHaDyDiVaDeForce, Twitter 6/18/2020)

「礼儀正しい人種差別」を用いても、それは人種差別であることに変わりはないことを白人は知る必要があります。

 

 

 

 

"Polite racism" ... this was not a polite exchange. It was condescending, elitist and white privilege with insidious motives.

(Creative_Native, Montana, USA, Twitter 6/20/2020)

「礼儀正しい人種差別」 ...これは礼儀正しいなやりとりではありません。それは恩着せがましく、エリート主義で、狡猾な動機を持った白人の特権でした。

 

 

一般人だけではなく公職にある人やマスメディアもコメントしています。オハイオ州アクロンの市会議員はpolite racismが米国社会に根付いていることを指摘しています。

 

 

 

Polite racism is a real thing.

(Tara L. Samples, Councilwoman City of Akron,Ohio, USA, Twitter 6/17/2020)

礼儀正しい人種差別は現実のものです。

 

 

 

 

全国ネットワークのNBCテレビもツイッターで「丁寧な人種差別」は日常茶飯事であると、発信しています。

 

 

 “Polite racism” is a particularly insidious form because it bubbles up in everyday settings but easily goes unchecked, experts say.

(NBC News,Twitter 6/20/2020)

「礼儀正しい人種差別」は特に陰湿な形で、日常的な状況では発生するが、容易にチェックされないと、複数の専門家が言っている。

 

 

 

もちろん、”polite racism”に反発する投稿もあります。

 

 

 

Calling it polite racism is pretty ridiculous.

(comrade boomer culture, Twitter 6/20/2020)

それを礼儀正しい人種差別と呼ぶのはかなりばかげている。

 

 

 

オーストラリアからの投稿。

 

 

 

 

Polite racism is ok .....Just be civil, and your subtle  racism will be acceptable to all the liberals in this thread.

(Citizen PV, Sydney, Australia, Twitter 6/14/2020)

礼儀正しい人種差別はOKです。ただ市民としてふさわしくあること。あなたの微妙な人種差別は、この状況ではリベラルな人々すべてに受け入れられるでしょう。

 

 

 

汚い言葉を使っての、感情的な反発投稿もあります。

 

 

 

 

 “Polite racism”?  HAHA!!! Oh f..k. Just SHUT THE F..K UP WITH THIS NONSENSE ALREADY! 

(CompoundBoss, New York City, NY, Twitter 6/21/2020)

「礼儀正しい人種差別だって」 ? はは!!! くそっ、こんなナンセンス、いいかげんにしろ!

 

 

 

このpolite racismのルーツは、1863年の奴隷解放宣言後、南部諸州が制定した人種分離(racial segregation)にあるという見方があります。

 

アメリカの黒人は、南北戦争終了後、憲法が修正され、法的には平等な権利を得たはずでした。しかし、南部諸州は「分離すれども平等(separate but equal)」という考え方を思いつき、白人と有色人種を区別する社会をつくる法律を制定しました。ジム・クロー法とよばれた人種分離法で、公共施設などでは白人が使うところと有色人種が使うところが区分されました。これは、discrimination(差別)ではなく、segregation(分離、区別)であると説明されました。

 

この分離の「ベール」("veil" of segregation)を後年、"polite" racismとしたの歴史家も少なくないのだそうです("Louisville, Kentucky," Wikipedia 6/20/2020)。

 

自宅の石塀への「Black Lives Matter」の落書きに対する警察への通報を人種差別意識と結びつけて見るのは、白人と黒人、白人と有色人種を常に意識する社会アメリカでならではのことでしょう。人種差別に非常にセンシティブになっている現在の特有の現象かもしれません。私のような日本社会で生きている人間には過剰反応だと思えます。

 

ただ、他民族、多人種に対する心のなかの優越感がpolite racismだとすると、われわれ日本人の多くが持っていると思える他人種・他民族への優越意識はどうなのでしょうか。アジアやアフリカの国々の人々を支援し、暖かく迎えているのですが、どこかに優越感をもって接しているのではないでしょうか。コロナ禍のなかで、欧米と比べて、日本の感染拡大や死亡者の、少なさに、「日本人は民度が高いから」と考えているのは、副総理兼財務大臣だけではなさそうで、これも今の米国的考え方に立てば、polite racismの現れと言われそうな気もします。

 

 

(引野剛司・甲南女子大学名誉教授/引野現代英語研究室 6/11/2020)

 

ここで紹介した表現は、原則として複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。

 

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