時事語、話題語、ビジネス・暮らしのことば、日常語に対応する今アメリカなどで使われている英語がみつかります
2020年07月03日
コロナウイルス禍で注目を浴びている「夜の街」。日本語にありがちなあいまい表現です。
「夜の街」と言えば、バーやキャバクラ、ホストクラブなど接待をともなう飲食店が集中している街というのが大方の人のイメージでしょう。東京都も「夜の街」という言葉があいまいであることを認識しているようで、「ホストクラブやキャバクラなど接待を伴う夜間の飲食店で感染した人を『夜の街での感染者』と定義」(読売新聞 7/1/2020)しています。
さて、この「夜の街」、どのように英訳すればいいのでしょうか。その意味を説明的に英語にした方がいいのか、それとも「夜の街」に相当する英語そのものがあるのでしょうか?
答えを先に行ってしまいますと、「夜の街」に相当する英語があります。
nightlife districtです。直訳すれば「ナイトライフ地区」。
Nightlifeとは、Longman Dictionary of Contemporary Englishには、
entertainment in the evening
夜のエンターテインメント
と定義されています。Cambridge Dictionaryの定義はもう少し具体的で、
entertainment and social activities that happen in the evening in bars and clubs
バーやクラブでの夜の娯楽や社交活動
となるとnightlife districtは「夜のエンターテインメント地区」「夜の娯楽、社交活動地域」になり、われわれの「夜の街」の語感よりもやや広い意味を持っている言葉です。
東京に限らず世界の大都市にはnightlife districtと呼ばれる一帯があります。バーやパブ、ゲイバー、ナイトクラブ、レストランに限らず映画、演劇、ミュージカルなどの劇場が集まっている地区がこう呼ばれています。
たとえば、ニューヨークのローワー・イースト・サイドは、市内でもっとも密集した夜の街の一つ(one of the city’s densest nightlife districts)とされています。
北京にもnightlife districtがあり、凶悪犯罪に巻き込まれることが多いようで、米国の国務省は、自国民に注意を喚起しています。
Violent crime affecting the expatriate community most often occurs in the bars and clubs of Beijing's nightlife districts.
("China 2019 Crime & Safety Report: Beijing,";Overseas Security Advisory Council, Bureau of Diplomatic Security, U.S. Department of State 3/11/2019;https://www.osac.gov/Country/China/Content/Detail/Report/6e339bea-374b-4614-aab9-15f4aeb35923)
駐在員の人々に影響を及ぼす暴力犯罪は、北京の夜の街のバーやクラブで最も頻繁に起きている。
東京・新宿の歌舞伎町なども英語メディアはnightlife districtと表現しています。つまり、nightlife district(ナイトライフ地区)はわれわれの言う「夜の街」にも相当することになります。
A man enters an adult amusement establishment in Shinjuku's nightlife district of Kabukicho in Tokyo, August 27, 2015.
(Thomas Peter,“After dark in Tokyo's Shinjuku,” REUTERS)
2015年8月27日、東京・新宿の夜の街、歌舞伎町にある大人の娯楽施設に入る男性。
これは、イギリスのロイター通信の写真のキャプションの文言です。コロナ感染がらみでも、nightlife districtが使われています。東京でのコロナ感染者数が再度、急増したことを伝える米AP通信Market Watchの短信はこのように伝えています。
Tokyo sees infections spike from nightlife districts.
("Tokyo sees infections spike from nightlife districts," Market Watch, Associated Press 6/29/2020)
東京、夜の街からの感染急増。
日本の英字メディアも「夜の街」をnightlife districtと訳しています。
Tokyo Gov. Yuriko Koike asked people not to visit nightlife districts hit by rising COVID-19 cases, especially among young people.
(“Tokyo logs 107 more COVID-19 cases, biggest daily rise in 2 months,” Kyodo/Mainichi 7/2/2020)
東京都の小池百合子知事は、とりわけ若者の間で新型コロナウイルス感染が拡大している夜の街に行かないように求めた。
「夜の街」だけではなく、「夜の繁華街」「夜の歓楽街」も同じ意味で日本のマスメディアには使われているようですが、これらもnightlife districtと英訳することはできます。しかし、「夜の街」と異なる英語表現をできればしたいと考えるなら、
entertainment and nightlife district
という言い方もできます。これも頻用されています。
用例を上げておきます。コロナウイルス禍が起こる前文書ですが、東京の米国大使館の来日米国人向けに発出されたメッセージです。
Some of Tokyo's entertainment and nightlife districts – in particular, the Roppongi and Kabuki-cho areas – have a higher level of crime compared to other parts of the city.
("Security Message: Safe Night in Tokyo," U.S. Embassy and Consulates in Japan, U.S. Department of State 6/30/2017)
東京の夜の歓楽街の一部、特に六本木と歌舞伎町は、都内の他地域と比べて犯罪率が高い。
この文章からも東京の六本木と歌舞伎町はentertainment and nightlife districtと認識されていることがわかります。
ということで「夜の街」は、night life district もしくは、entertainment and nightlife districtと訳すと英語圏の人々にはスムーズに伝わり、その意味をわざわざ説明的に英語にする必要はないと言えます。
(引野剛司・甲南女子大学名誉教授/引野現代英語研究室 7/3/2020)
ここで紹介した表現は、原則として複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。