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英語世間話、これ英語でどう言うの?

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「ロシアのウクライナ侵略/侵攻」は英語でどう表現されているか?

2022年06月07日

 

「侵略」「侵攻」で使われている英語はおおむね二つあります。

 

ひとつはaggressionで、もうひとつはinvasionです。

 

 

「ロシアのウクライナ侵略/侵攻」でも、当然ながらaggressionとinvasionが米英政府やメディアで使われています。おおむね前置詞が違うだけですが、それぞれの代表的な言いかたは、aggressionでは、

 

 

Russian aggression in  (against, toward[s]) Ukraine (ウクライナにおけるロシアの侵攻/侵略)

 

 

と前置詞がinかagainstかtoward[s]のいずれかを使った3つ。

 

 

invasionでは、

 

the Russian invasion of Ukraine (ウクライナへのロシアの侵略)

Russia’s invasion of Ukraine (ウクライナへのロシアの侵略)

Russia’s invasion into Ukraine (ウクライナへのロシアの侵略)

Russian military invasion into Ukraine (ウクライナへのロシアの軍事侵略)

 

 

とRussian invasion, Russia’s invasion, Russian military invasionの3種類と前置詞はofかintoを使って表現されています。

これらのなかでも、もっともよく見かけるのがRussian aggression in Ukraineです。

 

 

米国では、バイデン大統領をはじめとするホワイトハウス、国防省、外務省にあたる国務省やThe New York Times、Washington Postの新聞で使われているのを確認しています。 イギリスでは、ジョンション首相や外務大臣をはじめとする政府機関、BBC, The Timesなどのマスメディアが使っています。また、国連の場でも、ロシアがクリミア半島を占領した際に、ロシアを非難する各国の代表の言葉にも使われています。

 

国際関係にかかわる人の用語というわけではなく、一般の人がツイッターなどSNSにもよく使っている使う平易な言葉でもあります。

 

 

具体例を二つ紹介します。

最初は、米有力紙ワシントンポストの論説委員のツイートです。

 

From the Washington Post Editorial Board | Time is running out to stop Russian aggression in Ukraine. ( Karen Tumulty, Twitter 1/15/2022)

ワシントンポスト論説室より:ロシアのウクライナで侵攻を止めるには時間がなくなってきています。

 

 

このツイートが発信されたのは2022年1月15日で、2月24日にロシアがウクライナに攻撃を開始する1カ月以上前です。この時点で、ワシントンポストはすでに、ウクライナへのロシアの軍事行動の確度の高い情報を取材していたことがわかります。

 

二つ目は、米オレゴン州ポートランドに住む人のツイッターメッセージで、end Russian aggression in Ukraineが使われています。

 

Using these types of weapons should be a red line for NATO and force military intervention to end Russian aggression in Ukraine.

(Matthew McClain,Portland, Oregon, USA, Twitter 2/26/2022)

この種の兵器を使用することは、NATOにとってレッドラインであり、ロシアのウクライナ侵略を終わらせるために軍事介入を強いるものであるべきだ。

 

Russian aggression against UkraineとRussian aggression towards Ukraineの二つも、米ホワイトハウスの文書にも、国防省、国務省の文書にも、The New York Times, Washington Post, イギリスのBBC、The Timesにも使われていました。

また、日本政府のツイッターにも、2022年3月24日のG7首脳声明(G7 Leaders’ Statement)にはRussian aggression against Ukraineが使われていました。一般人も、これらを使ってSNSでメッセージを発信しています。

 

次はThe Russian invasion of Ukraineで、使用例を3つあげます。

 

まず、米ニュース週刊誌TIMEのツイッターです。

 

 

The Russian invasion of Ukraine is a confrontation of a dictatorship against a free people.(TIME, Twitter 5/15/2022)

ロシアのウクライナ侵攻は、独裁と自由な民衆の対決である。

 

米アリゾナ州選出の下院議員のツイートにも使われています。

I oppose Russia's invasion of Ukraine, but we can't help Ukraine by spending money we don't have.(Rep Andy Biggs, Arizona, USA, Twitter 5/11/2022)

ロシアのウクライナ侵攻には反対ですが、ないお金を使ってまでウクライナを助けることはできません。

 

三つ目は米の全国放送CBSのツイートで、take a stand on Russia's invasion into Ukraine(ロシアのウクライナ侵攻に対して態度を明確にする)と使っています

 

The Metropolitan Opera is taking a stand on Russia's invasion into Ukraine, vowing to stop engaging with artists or institutions supported by Russian President Vladimir Putin.(CBS News, Twitter 3/1/2022)

メトロポリタンオペラは、ロシアのウクライナ侵攻に声をあげ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が支持するアーティストや施設との関わりを止めと明言している。

 

前置詞の部分をintoやtowardsに変えたInvasion intoやaggression towardsも米ホワイトハウス、国防省、国務省やNew York Timesでも使われています。

 

Vladimir Putin’s invasion into Ukraine violates the very fabric of international norms and is a direct threat to our Western values.(U.S. Department of Defense 3/3/2022)

ウラジーミル・プーチンのウクライナへの侵攻は、国際規範そのものに違反し、我々の西側の価値観に対する直接的な脅威である。

 

National Security Advisor Jake Sullivan gives an update on Russian aggression towards Ukraine and encourages American citizens to leave Ukraine immediately.(The White House, Twitter 2/12/2022)

ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ロシアのウクライナ侵攻の最新情報を提供し、アメリカ国民に直ちにウクライナから離れるよう奨励した。

 

 

岸田首相や林外相など日本政府は、2月24日にロシアがウクライナに攻撃を開始した当初は「侵攻」を使っていましたが、ほどなく「侵略」に変更しました。より強い言葉でロシアを非難するという意を示すためです。

日本政府は2月24日のロシアのウクライナに対する軍事行動を「侵攻」と表現していました。2月24日の外務省の発表文書には、「ウクライナにおけるロシア軍侵攻に伴う注意喚起」となっています。しかし26日には、林外相が記者会見で「ロシアによる侵略」と表現を変更し、 翌27日に岸田首相は記者とのぶら下がり会見で「侵略」と言い方を変えています。5月23日の発表文書のタイトルは「ロシアによるウクライナ侵略を非難する共同プレスリリース」となってます。

 一方、アメリカ政府や英語圏のメディアは、ロシアがウクライナに攻撃を始めた当初からaggressionもinvasionも使っています。それぞれの語が明確に区別して使われているような印象はありません。

 

イギリスのLongman Dictionary of Contemporary Dictionaryでは、

 

Aggression:the act of attacking a country, especially when that country has not attacked first(国を攻撃する行為、特にその国が先制攻撃していないとき)

 

Invasion: when the army of one country enters another country by force, in order to take control of it (ある国の軍隊が、他国を支配するために、武力で他国に入ってきたとき)

 

つまり、Longmanの定義では他国を攻撃するのがaggressionで、他国の領土に軍隊が武力で入り込むのがinvasionになります。この定義だと、aggressionは「侵攻」で、invasionが「侵略」になります。

 

ちなみに、三省堂のウィズダム和英辞典は「侵略」の訳語として、aggressionとinvasionの両方を当てていますし、「侵攻」はinvasionとしています。一方、ウィズダム英和辞典はaggressionもinvasionも「侵略」としています。

 

国連はaggressionの定義を総会決議で定めています。United Nations General Assembly Resolution 3314 on the Definition of Aggressionで日本語には「侵略の定義に関する決議に関する国連総会決議3314」と日本政府は訳しています。

 

決議の第一条にaggressionの定義が書かれており、日本政府の訳語はaggressionを「侵略」と訳しています。

 

Article 1

Aggression is the use of armed force by the Sate against the sovereignty, territorial integrity or political independence of another State, or in any other manner inconsistent with the Charter of the United Nations, as set out in this definition.

侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であ って、この定義に述べられているものをいう。

 

国連がきちっと定義をするということは、国際政治の文脈では、「侵略」にあたる英語はaggressionと考えることができます。

 

とはいうものの、米国務省の「ロシアのウクライナ侵略/侵攻」関係の文書をみても、同一文書にaggressionとinvasionの両方が同じ意味で使われていることが多々あります。

 

日本政府のように「侵略」のほうが「侵攻」よりも、意味合いが重いという認識はないようで、米政府は、aggressionもinvasionも同じ重みのあることばとして使わ使っているという印象を強く、受けます。

 

 

 

 

(引野剛司・甲南女子大学名誉教授/引野現代英語研究室 6/7/2022)

 

ここで紹介した表現は、原則として複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。

 

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