時事語、話題語、ビジネス・暮らしのことば、日常語に対応する今アメリカなどで使われている英語がみつかります
2013年09月19日
2020年の夏のオリンピックに東京が選ばれ、「おもてなし」がにわかに脚光をあびてきた。
東京誘致に向けた最後のプレゼンテーションで、「おもてなしの心」を日本に重ね合わせてIOCの委員にアピールする作戦を誰がどのような意図で立てたのか、興味津々だった。
そのあたりをプレゼンを担当した滝川クリステルさんがニュース・バラエティ番組「Mr.サンデー」に生出演して明らかにした。「おもてなし」という言葉をフランス語のプレゼンのなかに入れることにしたのは彼女自身だったと聞いてちょっと驚いた。
この言葉がどの程度、IOCの委員たちの心に沁み込み、投票行動に結びついたかは知るよしもない。しかし、日仏の文化の狭間で生まれ育ってきたクリステルさんの着眼点にまずは称賛を送りたい。
「おもてなし」をそのままローマ字で表現したomotenashiはすでに英語のボキャブラリーの中に入り込んでいて、「日本文化の素晴らしさを示す概念」のひとつとして欧米では捉えられているからだ。
欧米のメディアがomotenashiをどのように報じてきたのかをみれば、「おもてなし」という言葉が作り上げるイメージの一端がわかる。
ロサンゼルスの南12キロに位置するトーランスという小都市で発行されているDaily Breezeという新聞(2009年12月15日付)の記事にあったomotenashiの説明は秀逸だと思った。フリーランスのMerrill Shindlerという記者が書いている。
"Omotenashi is a traditional Japanese way of hospitality with the most dedicated and exquisite manners. It creates an ambiance of tranquility and relaxation where guests will experience unforgettable moments at ease."
「おもてなしは、もっとも献身的で、もっとも洗練され上品なマナーによる、日本の伝統的なホスピタリティの方法です。それは、穏やかさとくつろぎの雰囲気を作り出し、忘れることのできないくつろぎの時間をゲストは経験します」
この記事は、トーランスにあるNiwattoriという居酒屋についてで、メニューにあった言葉が引用されていた。トーランスは日本企業が多く、日系人、日本人が多いところなのそうだ。
もうひとつ、「ニューヨーク・タイムズ」の記事(1997年4月20日付)には、こんな風に説明されていた。
THE Japanese call it omotenashi: a service concept for which no simple translation exists. Thoughtfulness, dedication to customers' needs and meticulous attention to detail are key elements of such service.
日本人はこれを「おもてなし」と呼んでいる。単純な英訳語は存在しないサービスの概念で、心遣い、顧客のニーズへの献身、細いところにまく行き届く配慮がこうしたサービスの主要な要素だ。
これは”In Tokyo's Ryotei, The Art of Service”という見出しで、東京の料亭についての記事の一部だ。これを書いたのはELIZABETH ANDOHというアメリカ生まれ、アメリカ育ちの日系アメリカ人で、80年代から90年代に日本文化についてニューヨーク・タイムズに寄稿しているのをよく見かけた。
omotenashiは日本企業のプラスのイメージに重ね合うようにも使われている。トヨタのレクサス、資生堂、全日空に関する記事で見つけた。
トヨタのレクサスの販売店のレポート。カナダの主要紙のひとつThe Globe and Mailの2005年11月24日付の記事で、記者はJeremy Cato。
In Japan they call it "omotenashi" or hospitality and here at a $28-million (U.S.) Lexus dealership located in one of the swankiest parts of Tokyo, they are experts at this art of the earnest Japanese welcome expressed through bowing, honorific language and attention to detail.
日本では彼らはそれを「おもてなし」(つまりホスピタリティ)と呼んでおり、東京の最もハイセンスな場所の一つにある2800万米ドルのレクサスの販売店は、おじぎや敬語、細部への配慮を通じ示される日本人の心からの歓迎の気持ちを示すこの技の熟達者である。
ニューヨーク・タイムズの傘下にあるInternational Herald Tribuneにのった”Corporate makeover: Shiseido tries a global approach”(2009年2月13日付)という見出しの資生堂に関する記事にはこんな風にあった。記者はMiki Tanikawa。
Company executives emphasize the concept of omotenashi, a refrain used in the service industry, especially luxury hotels. The word means hospitality, but to Japanese people it means something more, perhaps involving an elevated politeness that makes customers feel valued and honored.
企業トップは、おもてなしの概念を強調している。サービス産業、とくに高級ホテルで繰り返し使われている言葉だ。この言葉は「ホスピタリティ」を意味しているが、日本人にとってはそれ以上のものを意味している。おそらく顧客がその価値を実感し、敬意が示されていることを感じる高尚なていねいさを含んでいる。
最後にもう一つだけ。ロンドンで発行されている高級紙と大衆紙の中間的存在のThe Daily Telegraphの”Win an enchanting holiday to Japan,”と言う記事(2012年10月9日付)では「日本のホスピタリティのエッセンス」と説明されている。
Discover omotenashi, the essence of Japanese hospitality, from the moment you step on to the plane with All Nippon Airways.
全日空の機内に足を踏み入れた瞬間から、日本のホスピタリティの真髄である「おもてなし」を見つけること。
英文メディアだけを見ただけだが、こうした記事の積み重ねが、omotenashiという欧米にはない、磨き抜かれたもてなし方が日本にはあるというイメージを作り上げていることは容易に想像できる。
(引野剛司/甲南女子大学教授 9/19/2013)