時事語、話題語、ビジネス・暮らしのことば、日常語に対応する今アメリカなどで使われている英語がみつかります
2020年03月07日
治療薬のないコロナウイルス感染症の拡大で、お互いの身を守るのための「咳エチケット」という言葉をよく見聞きするようになりました。
「咳エチケット」は英語でもcough etiquetteで、広く使われています。ツイッター上で多数みかけますし、このところ日本でも有名になったアメリカの感染症対策の総本山「疾病対策予防センター(CDC, Centers for Disease Control and Prevention)のホームページで専門家も使っています。
さて、日本語では「エチケット」と言えば「守る」という動詞をよく伴います。一方、英語ではどうやらpractice(実践する)がetiquetteとともに頻繁に使われる動詞のようです。Practice cough etiquetteが使われている例をいくつかあげます。
Practice good hand hygiene by washing hands regularly & practicing cough etiquette.
(Irish Defence Forces Medical Corps,Ireland, Twitter 3/6/2020)
定期的に手を洗い、咳エチケットを実践し、手の衛生状態をよく保つようにしてください。
Practice your cough etiquette and wash your hands.
(Haley Jorden, Maine, USA, Twitter 3/3/2020)
咳エチケットを実践し、手を洗ってください。
Dr. Maldonado says that it's important for individuals to practice good cough etiquette and good hand washing habits.
(Jasmyne Ray,Reporter covering the city of the Opelika for the Opelika-Auburn News,Opelika, Alizona, USA Twitter 3/6/2020)
マルドナド博士は、誰もが咳エチケットを実践し、手洗いの習慣を身に付けることは重要だと言っています。
日本語発想からはなかなか思いつきませんがuseが使われている例もあります。
If you cough, use proper cough etiquette- see pic.
(Adventist Elders, Georgia-Cumberland Adventist Elders Consortium, Dacula, Georgia,USA Twitter 3/7/2020)
咳をする場合は、適切な咳エチケットを使用してください。写真を参照。
したがって、咳エチケットを「守る」と言いたいときは、practiceやuseを動詞に使うとナチュラルな英語となります。
ほかにstick to(「やり通す」「固執する」)を使った言い方が、英語国であるナイジェリアからのツイッターにありました。
Stick to simple hand washing with soap and cough etiquette.
(The Metrics,Abuja, Nigeria, Twitter 3/7/2020)
簡単な石鹸での手洗いと咳エチケットを守ってください。
「咳エチケットを守ってください」と言いたいときにもstick toが使えますが、
「咳エチケットを徹底する」という言い方にもあたると思います。
ところで、このcough etiquetteと言う言葉は、日常語として英語圏で日々使われており、誰もが知っている言葉であるかどうかは疑問が残るところです。実際、日本に住んでいるカナダ人がこんなツイッターを発信しています。
I've never even seen the term cough etiquette other than in Japan.
(Jane,Canadian in Tokyo,Twitter 3/2/2020)
日本以外で咳エチケットという言葉を見たことがありません。
こうした感覚もうなずけないことはありません。cough etiquetteは比較的新しいことばで、感染症と無縁のところで生活してきたネイティブには目新しい言葉だとおもえます。
New York Timesの2018年2月27日付けのDaniel Victor記者による,"Sneeze Into Your Elbow, Not Your Hand. Please,(くしゃみは、手のなかにするのではなく腕のなかに、してください)" という記事の中で、ミズーリ大学医学部カンザスシティ校のメアリー・アン・ジャクソン小児科教授は、cough etiquetteという言葉が使われだしたのは2000年からだと言っています。
Mary Anne Jackson, a professor of pediatrics at the University of Missouri-Kansas City School of Medicine, said the term “cough etiquette” first turned up in 2000, and she traced the suggestion to sneeze into your arm to 2003, when SARS fears were widespread.
(Daniel Victor,"Sneeze Into Your Elbow, Not Your Hand. Please," New York Times 2/27/2018)
ミズーリ大学医学部カンザスシティ校のメアリー・アン・ジャクソン小児科教授は、「咳エチケット」という用語は2000年に初めて現れたと述べ、サーズの懸念が広がった2003年にくしゃみは、自分の腕の中にというアドバイスがあることをたどった。
そういえば、いつ頃だか覚えていませんが、ずいぶん前に, くしゃみをするとき、手で口を押えるのではなく、腕を曲げて、口のところに持ってきたネイティブの大学の教員を見たことがあります。その時は、ちょっと、かわったくしゃみの仕方だなと思った程度で、それがcough etiquetteであることは知りませんでした。
(引野剛司・甲南女子大学名誉教授 3/7/2020)
ここで紹介した表現は、複数の実用例に基づいています。その他の実用例や関連表現は実用・現代用語和英辞典(本体)(www.waeijisho.net)をご覧ください。